(1)業務の目的
高機能、軽量化、省資源化等に伴うCFRP(炭素繊維強化プラスチック)の将来の利用増に対し、廃棄時は埋立処分が大半で、セメント燃料化では電気集塵機荷電障害に問題が生じたり、再利用においても、従来提案されている熱分解法では、欧米メーカーは建築用の不織布が主用途である。
国内においても技術開発が遅れており、その必要性が高い。これは、インジェクション用コンパウンドや長繊維コンポジットに適用できる性能および形状のリサイクル品が回収できていないためである。
そこで、本計画は、CFRP 回収技術を用いて、束状にRCF(リサイクル炭素繊維)を回収し、富士加飾㈱が保有する2 次加工技術に関するノウハウと応用技術を用いて、射出成型用コンパウンドや長繊維コンポジットを製造する炭素繊維の回収から、最終製品までの一貫処理のシステムを構築するため実証を行う。
(2)解決すべき課題
今回の実証事業の目標は、下記3 項目の検討を通じて、CFRP の再製品化に係る技術システムの構築を図り、新たな市場開発に向けた具体的な成果を得ることにある。
① CFRP の束状回収技術の実用化実証
② CNG ボンベを活用した半導体等製造冶具の製品化に向けた一貫利用システムの確立
③ 航空機製造端材、風力発電プロペラ端材等多様なリサイクル源にアクセスし、安定した回収源の確保とRCF2 次加工製品市場開発の課題整理
(3)実証事業の内容
実証事業は、下記の項目に基づき実施した。
① 原料回収に係る現状と評価
② 回収分別に係る現状と評価
③ コンパウンドに係る現状と評価
④ 環境負荷低減効果の検証
⑤ 事業化可能性等の検証
⑥ 本事業のまとめと今後の見通し
(4)実証事業の成果
先の解決すべき課題の3 項目に対し、実証事業を踏まえた成果は、次のようにまとめられる。
① CFRP の束状回収技術の実用化実証
CFRP の束状回収は、富士加飾㈱実験炉及び㈱リーテム水戸工場の両設備において実証作業が進められ、その結果、設備改造を伴う混燃バーナーと、自動制御システムの導入で、商用化システムとしての量産化の対応が可能となり、温度プログラムの標準化により、多様なリサイクルソースへの対応が容易に行えるという結果が得られた。
具体的には、設備改造を行い、燃焼系の改善を図り、空気とLP ガスによる混燃バーナーを設置することにより、燃焼時間の短縮、発生ガスの安定燃焼、反応槽内の空気流量・流速の安定制御が図りうるという効果が得られた。
また、自動制御システムは、対象原料の多様性や、燃焼特性・温度制御の差異を踏まえたいずれのCFRP(CNG ボンベ、水素燃料ボンベ、航空端材、プリプレグ端材等)に対して、マトリックス樹脂の多様性、熱履歴の多様性に対応でき、安全でかつ、省力化できる商用システムとして利用できる可能性が得られた。
本燃焼方式を用いたCFRP の束状回収は、2 軸押出機への長繊維の自動投入が可能であり、樹脂との結合性が高まるなどリサイクル材特有の特性を見出した。
RCF 繊維含有率は、コンポジット開発において40%~60%程度に制御可能となるため、利用用途も、ペレットのみならず、押出材(チョップド利用)としてマグネシウム代替CFRTP コンポジットの製品化に可能性が拡がる等、先進ヨーロッパ技術の水準以上の成果が期待できる。
なお、処理に伴う副生物としての排ガスや、粉塵に伴う周辺環境や、作業環境への影響についても、排ガス処理設備や、集塵設備の整備により十分な制御が行え、商用化の制約にはなりえないという結果が得られた。
② CNG ボンベを活用した半導体等製造冶具の製品化に向けた一貫利用システムの確立
CNG ボンベは古くからアメリカで使用されており、日本にも多く納入されているが、最近は日本メーカーも参入し,天然ガス以外にも多岐にわたる用途が開発されている。CNG ボンベの廃棄量も現段階では市場内での賦存量もあり、当面の廃棄量は見込める(9 千本;15 年累積量)ものの、次世代自動車は、水素ガスボンベが採用されており、当初予定のCNG ボンベのみを対象とした事業化は困難であると判断した。
そのため、水素燃料ボンベ、航空端材、プリプレグ端材まで対象を拡大し、廃棄特性(数量、場所、今後の伸び等)や、RCF 回収に係る製品特性(異物、温度制御など)を検討した。
多様な廃材に対し、適切な処理条件を見出し、回収されたRCF はT300、T700,T800 に集約でき、2 次加工のステージでは、大きく3 種類のRCF として扱えることを見出した。
さらに、海外(特にCFRP 生産基地の多い中国、米国など)において原料回収・利用に係る企業ネットワークを構築し、当初危惧された原料確保に係る本実証事業の事業化に進むうえでのリスクが、低減された。
一方、製品化については、2 軸押出機を用いたRCF コンパウンドの量産対応は完了。自主開発により、長繊維コンポジット、長繊維不織布など、回収源ごとの製品化可能性を見出せた。
また、RCF 回収物(単繊維)、製品化物(ペレット、長繊維コンポジットなど)の品質評価が進み、RCF 回収物は新品CF と比べて単繊維評価では80%の強度が得られること、ペレット(PC+25%RCF)は、新品炭素繊維成形品と同等の機械的性能を保持しており、半導体・液晶製造分野における商品化に向けた物性評価は完了した。
以上、原料の安定確保から、回収利用、再製品化の品質確保に至る一貫利用システムの検証が得られたことから、今後は、多様な需要家と具体的に連携し、リサイクルソースごとの再製品化のレシピ開発や、実際の販売ステージに入る予定としている。
③ 航空機製造端材、風力発電プロペラ端材等多様なリサイクル源にアクセスし、安定した回収源の確保とRCF2 次加工製品市場開発の課題整理
実証事業を進める中で、リサイクルソースは、CNG ボンベ、水素燃料ボンベ、航空端材、プリプレグ端材、その他海外(中国、米国)など回収源との連携が進み、初期段階の事業化は可能という結果が得られた。
一方、再製品化については、ペレット、押出材、不織布の3 種類の用途に照準して、今後、具体的な需要家と連携の上で、製品レシピの構築、品質管理、安定供給、事業性
の評価などの事業課題に、引き続き取り組む必要があると考えている。
実証事業の終了にあたり、一貫利用システムに係る様々な成果のとりまとめが進んだ。
しかしながら、得られた結果は、再製造化の主体、いわゆるメーカー視点での開発に過ぎない。今後、得られた成果をもとに事業化を行うためには、さらに、廃棄製品の種類、回収分別の方法(長繊維、短繊維)、再製品化の方法、市場性などの観点で、数多くの具体的なデータの積み上げが必要となる。
(5)今後の見通し
これまで、半導体製造冶具、搬送用ロボットアーム等を利用用途に検討を行い、新品炭素繊維と同等の性能を有する製品化のレベルに達しており、原料回収元、利用需要先との連携を具体的に推進中である。
また、25mm 繊維長を有するRCF の押出成形により、長炭素繊維含有率40%以上で、残存繊維長1mm~5 ㎜以上のコンポジットの開発も進行中である。事業化は、事業投資を行い、(実証設備でなく)量産の事業設備を整備した後、需要家と連携の上で、改めて再製品化のレシピ構築、品質管理、安定供給、事業性などの課題をクリアして初めて実現する。
一方、更なる用途開発を通じて大学、研究所、海外を含む需要家等との今後の連携ニーズが高いことがわかった。そこで、今後、複数年をかけて、事業投資を行い、具体的に需要家対応を進め、事業成果が得られるよう引き続き取組みを進める予定としている。